ECOだより




「HBOC」 とは・・・?

遺伝性乳ガン・卵巣ガンのことです。

前回号(Vol.50)に続いて、もしもの際の情報として概要をご紹介させていただきます。

遺伝子的な要因で発ガンしやすくなることも
「ガン」の原因には、日常生活が影響するものと遺伝的要因によるものとがあるとされており、遺伝的要因をもった体質の方は若くして(50歳未満)乳ガンや卵巣ガンを発症する傾向が強く、また治 療後に再発するリスクが高いことが統計学的遺伝子解析により分かってきております。
HBOC(遺伝性の乳ガン・卵巣ガン)は遺伝子変異が原因によるガンです。遺伝子は男女の差はなく50%の確率で親から子へ引き継がれます。

DNAとBRCA1・2の遺伝子

HBOCに関わる*1遺伝子(DNA)には
BRCA1(17番*3染色体)BRCA2(13番染色体)」と呼ばれるそれぞれ独立した遺伝子が2つあり、HBOC体質の方は生まれつき「BRCA1または2」が機能しないため乳ガンと卵巣ガンを発症しやすい体質となります。

細胞核の中にあるDNAに各遺伝子情報が刻まれています。

HBOC体質の方が必ずしも乳ガンや卵巣ガンを発症するわけではありません。乳ガンは早期発見が可能なので若い年齢(25歳くらい)からMRI検査、マンモグラフィ・PET検査などの定期検診を受けることを推奨します。

*1 DNA(デオキシリボ核酸)=遺伝子… 4つの*2塩基で構成され2重らせん構造をとっており、遺伝情報が組込まれています。
*2 塩基と呼ばれる物質(アデニン・チミン・グアニン・シトシン)… 遺伝子の2重らせん構造(塩基配列)を作っている。
*3 染色体 細胞核の核分裂の際に現れる紡錘形の物質
(遺伝や性別の決定に重要な働きをする)。


身体の設計図DNA
私たちの身体の設計図である「2重らせん構造を持ったDNA」は活性酸素や化学物質、紫外線、加齢など様々な刺激によって傷つく(損傷する)場合があります。損傷したDNAが適切に修復されない場合、細胞の状態が安定せずに突然変異やガン化に発展する確立が高くなってしまいます。


BRCA1と2はともにDNA損傷の修復をおこないます。しかし、BRCA1と2に変異があるとDNAの修復ができずに細胞は死んでしまいます。
ところが、DNA修復もできず細胞死にも至らない場合にガンが発生します。


酵素PARPと遺伝子BRCA1・2の働き
細胞内には傷ついたDNAを修復する働きを持つ酵素として「*4PARP」、DNA修復を担う遺伝子として「*5BRCA1、*5BRCA2」があることが医科学的に知られており、「PARP」はDNA損傷の「*6一本鎖切断」を修復する役割を担って*7塩基除去修復をおこない、「BRCA1と2」はDNA損傷の「*6二本鎖切断」を*8相同組換えもしくは*9非相同末端結合という修復作業をおこなう遺伝子として働いてくれます。

DNAの2重らせん構造を解いた塩基配列のイメージ図

*4 PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)… DNA損傷の「一本鎖切断」を修復する酵素で塩基除去修復をおこなう。
*5 BRCA(breast cancer susceptibility gene)… DNA損傷の「二本鎖切断」を修復する遺伝子(BRCA1とBRCA2がある)で相同組換え修復をおこなう。
*6 DNA主鎖切断 遺伝子の本体であるDNAの立体構造は二重らせん状の長い鎖構造を持っており、この長い鎖をDNA主鎖という。何らかの原因で損傷を受け鎖が切断された状態をDNA主鎖切断といい、それぞれ1本鎖切断(1本の鎖が切れた場合)、2本鎖切断(2本の鎖が接近した位置で切れた場合)という。
*7 塩基除去修復(BER=base excision repair)… DNA中に生じた損傷塩基(1本鎖切断)を認識し、損傷塩基を切断して、元の一本鎖の塩基配列を鋳型鎖として切断部分を埋める遺伝子修復。
*8 相同組換え修復(HR=homologous recombination)… DNA中に生じた損傷塩基(2本鎖切断)を認識し、塩基配列中の相同な配列を探索し鋳型鎖として合成し、損傷部分と置き換える遺伝子修復。
*9 非相同末端結合(NHEJ=non- homologous joining)… DNA中に生じた損傷塩基(2本鎖切断)を認識し、切断部分の塩基の端と端を繋ぎ戻して損傷部分を修復する遺伝子修復。

遺伝的な要因で乳ガンと卵巣ガンを発症しやすい体質・・・でも遺伝子変異が明らかなら対策法も変わり、より効果的な処置も。




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